somebody to Sake

漫画「ワカコ酒」を読んで違和感を覚える部分というのは、要するに「こいつは俺とは違うタイプの酒飲みだな」ということである。それはもう、黒魔術師と時魔導師くらい違う。などと書いたところで、飲んでない人には「酒飲みってあれでしょ。9時過ぎくらいに真っ赤な顔で頭にネクタイ巻いて「もう一軒行こ!」て駅前あたりでシャウトしてる人でしょ」と言われてしまいそうであるが、飲んだくれの中では常に気を使う部分である。世に酒好きを名乗る人は多いが、実は微妙にタイプは違う。黒魔術師に白魔術師、赤魔導師青魔導師時魔導師くらには差異がある。たとえば、前述のネクタイ巻いた方々は、どちらかといえば飲酒そのものよりも、酒飲んで馬鹿騒ぎするのが好きなことが多い。とか書いていると長くなってしまうのでここで留めるが、つまりはこのワカコ氏と僕とは酒飲みのタイプが違うということである。
僕は典型的な飲んだくれである。ごはんはおかずではなく酒は肴、酒をアテに酒を飲んでしまうタイプだ。漫画で言うならるろ剣の比古師匠だろうか。強くもないのに酒ばっかがばがば飲んでしまう。飲み会の直後に空腹を覚えることもままある。どうもこれは母方の体質らしく、その筋の親戚も皆飲み始めると食べもせずに酒ばかり飲んでいたと聞く。一度飲んでみたいものだが、僕はしかし弱い方なので、きっと宵の口を迎えるまでもなくぐったりとなってしまうことだろう。酒は体質である。
そのような読者から見ると、ワカコ氏が好きなのは「酒」ではなく「居酒屋」なのだなと感じるのである。もう少し言えば、タイトルは酒だが見所は酒に合う一品なのである。酒はあくまで脇役だ。実際、居酒屋の一品に対しての執着を、ワカコ氏は一杯の酒に対して見せていない。調味料に近い扱いなのだ。そのあたりが、酒and酒の僕から見ると、こいつ酒飲んでないなという違和感にあたるのである。当然のことだが、ワカコ氏は僕とはタイプが違うというだけであり、飲みすけには変わりはない。むしろ自室での一人酒が多く、一人で酔っ払って朝一人で二日酔いを迎える僕にとっては、この一品ものに傾倒し、それに合わせて酔っ払わない程度の酒を嗜み、明日への活力にかえるワカコ氏はほとんどリスペクトしたい存在である。つーかお上品な酒飲みやがってこのファック女と好意的な罵声を浴びせたい。適度な量の飲酒は常に幸福なものなのだ。そしてそれが出来ていれば、と多くの酒飲みは常に頭を悩ませているものなのである。ビール大瓶一本で満足できれば世話はない。デブがうっかりチャーハンにラーメンを食べてしまうようなものだ。勿論、僕はデブである。エンゲル係数が下がっても飲んでる係数が上がってしまうのが悩みの種だ。上手く書いたつもりかこのブタ野郎。
とかぐだぐだと書いてみたのだが、結局悪くない漫画ではないかと思うのだ。ただ、僕から見れば、これは酒漫画ではなくグルメ漫画というだけだ。しかも酒に合う食物漫画。酒をあてに酒を飲むタイプにはわかりにくい部分もあるが、そこは飲んだくれ、はたと膝を打つエピソードもある。アジの南蛮漬けに対する冷酒二合瓶(多分)とか、いかと芋の煮物に対するひや酒とか、こいつわかってんなと思ってしまう。祭りで焼きソバ買って、そこであえて安い缶ビールをチョイスするところなんて最高だし、2巻ラストの「居酒屋新幹線」なんて思わずお前は俺かと呟いてしまったほどだ。少し首を傾げてしまう部分はあるにしろ、それでも酒に対する愛情はよく見える。まあ紫蘇の天ぷらをばりばり食う人間から見れば、素麺の付け合せにしか紫蘇を使わない人間に首を捻る程度のあれであろう。とまあ、よくわからない例えで終わろうとしているあたり、これ書いてる奴もう酔ってるな、などと感じて頂ければ幸いなのである。なんじゃそりゃ。