飛べた頃の記憶は、擦り傷のようには消えてくれない

獣の奏者」探求編・完結編も読了しました。いやー凄かった。素晴らしい物語でした。世界観とかキャラクターに相当に入ってしまって、最後の十数ページはもう捲るのが辛かったよ……。ここまで入った話も久しぶりだったと思います。最終章はタイトルを見ただけでもうよしてくれと思いました。でもこのラスト以外には、やはりエリンという希代の獣の奏者の運命に決着をつけるには不十分というか、これしかないよなあとは感じるのですが。感じるのですが、ラストの漂白されたようなセリフ、描写はもう、切なくて切なくてたまらなかったです。ハッピーエンド大好きな人たちはどんな風に感じるのかなあ、あのラストは。いやまあどちらでも構わないのですが。
 例えば並のライトノベルなら、それこそ50ページくらいかけてくどくどと書くところを、ここではもうほんとに僅かな描写だけでぴたりとやめてしまう。それが逆に想像力というか、こっちの脳を刺激して、必要以上に切なく作用していました。その描写がまたがっつりと読者を掴んじゃうしね。エリンやイアルとジェシとの絡みは、作中のテーマもあってか結構きっちり描かれるのですが、エリンとイアルの絡みは結構少ない。少ないんですが、様々に濃厚なんですよ。探求編ラストのここまでだな、とか、最後に王獣の小屋の中で喋る二人とか、凄く絆を感じさせてくれる。そういう部分がすごくいい。だからこそジェシはああいう天真爛漫なガキになったんだろうなと思うし、エリンも王獣編のような、人間なんて滅びるんなら滅びればいい、なんていう自暴自棄さが抜けていったんだな、と素直に思わせてくれたと思います。まあ訓練された読者としては、そういう変化が嬉しくて仕方がなかったのと同時に、ああラストはきっとこうなるんだろうなと凄まじく切ない気分になったものですが。
 ともかく端々のそういう濃さが凄いと思います。ナイスウーマンのオリや愛すべき自由人(?)ロラン、老武人ヨハルなども、一瞬でこっちの心を握って離さなくなる。エサルのまなざしの優しさや、セィミヤの苦悩なども、紙を伝わってダイレクトに伝わってくる。それでこちらも入り込んでしまいアレだったのですが、それは可愛さとか男らしさの記号ではなく、彼らの人間臭さというか、人間的な苦悩が的確に感情豊かに描かれていたでしょう。具体的に何よといわれるとまた困るのですが。でも僕は「獣の奏者」というタイトルには、人間という獣を奏でる、人間が作り上げた国というか共同体の中で、様々な人間が様々な役割を果たし、様々に生き様々に死んでいく、そのような意味も勝手に想像しています。そして彼らは間違いなく、彼ら自身の奏者だったと感じる。この王獣が翔け、戦蛇がうねる大地の中で、鮮やかに人間たちの物語を紡いでいたなと感じてしまいます。そしてそれはたまらなく心地いいし、また切ない気分になるのです。
 なんか最後らへんセンチメンタルなことをくどくどと書いてしまいましたが、でもいい物語だったよこれは。まだはやいけど今年ベストはこれになりそうだ。まだ早いけど。ていうかなんかあったような気はするんだけど……。しかしエリンほど入っちゃった主人公も久しぶりだなあ。イアルやジェシ絡みの場面はだいたい微妙に半泣きで読んでた気がする。もう運命とかさ、自分の信念や行動に対するケリとかそういうの全部いいから、全部放り投げてジェシやイアルのために生きてほしいなと何度も願ったものですが、まあそうしないからこそ、出来ないからこそのエリンであり、獣の奏者なんだよなと、ほんと理屈ではわかってるんだけどねえ。切ない。一番切なかったのはイアルの、母親が金貨よりも自分を……、てところですけども。あいつもなあ。あいつもなあ……!!
 で現在放映中のアニメ気になってます。でもNHKかー。貸してくれた人が、「王獣がなんか犬っころみたいだから嫌」と語っており、まあ確かにそんな感じはあるわなと若干敬遠気味なんですが、でもOPのスキマスイッチ「雫」が超絶に好みなので見ようか見まいかどうするかみたいな気持ちです。突然夜がはじけて目を閉じて、気付いたら君がいるんだよ。いいじゃない。全50話は長いわなー。まだ40話だけど。まあ年内にいけるように細々と見ればいいか。あ、そうだ精霊の守り人のアニメも観てみたいな。ともかく「獣の奏者」、こいつはマストだぜよ。