永遠が見える、美しい病だ

 いい漫画読んでるときの時間の流れの速さといったら。ほかの事のどうでもよさといったら。昨日読んだ『イティハーサ』(水樹和佳)は確実に素晴らしい漫画でした。というわけで、俺が昨日竹のメールをすぐに返信しなかったのは、文庫版の2巻読んだ後にいても立ってもいられなくなってチャリで疾走してたらかなのです(私信)。
 いやもう、圧倒されましたね。それに完結しててよかった。ラストがもう、本当になあ。あ、基本的に以下はネタバレなので、読もうと思ってる人は避けてください。一応。
 主人公の鷹野が物凄く気持ちのいい男で、ヒロインのトオコ(←漢字変換できねえ……)も、ヒロインらしい聖人っぽさがない清清しさがある。主人公カップルの幸せを全身全霊で望めるなんて、本当に久しぶりでしたね。初めからずっと切なかったですが、2巻でヨオコの中のトオコを見つける鷹野とか、ラスト付近の『兄妹、やめようか』は相当来ました。特に後者で、ヨオコをすら認める鷹野は本当に気持ちのいい男だなあと。いい男でした。『また、会おうね』で鳥肌が立ちました。
 もちろん、サブの方々も素晴らしい。桂さんは漫画史上最高の女傑であると確信していますし、青比古の浮遊感のある思考は綺麗(着地点が桂だったのには泣ける)。黄実花とかキョウジ(漢字……)の素直な人間らしさにも惹かれます。結局、誰よりもキョウジと黄実花は正直で、自分の中の悪の快楽も、大切な人への想いもすべて肯定しているからこそ、人間ってものの趣に気付かされるなあ、とか。
 SF漫画です。宗教による救いの否定という、いかにも現代日本らしいテーマでありながら、これほどのカタルシス、説得力を持って語られると、もう頷くしかできなくなってしまいます。『神殺し』を続ける鷹野と、『人殺し』を肯定するトオコ(ヨオコ)が掴んだ結末は、読者には寂しく、美しく映りすぎて何か分からなくなるのですが、どれでも最後の桂の慟哭が『真実』であると信じたくなります。
 個人的に番外編って嫌いなのですが、これにはらしくもなくそれを望んでしまいます。1万2千年後の鷹野とトオコを見てみたい。勿論、それは適わぬ夢なのですが、でもあまりにもその2人が愛しくて。



人間を肯定する漫画はよくあるのですが、『イティハーサ』は人殺しですらも肯定しています。それがなんか、すげえなあと。殺す快楽を内包してこその人間で、それがなくなるのなら人間というものの価値などない。ヒロインがそれを体現しているのが、この作品の1つの面白さかもしれません。
 SFは絵だ、って本当だよなあ。ハヤカワ文庫なので、文章に飽きた人は是非。飽きてなくても是非。