マリみて、のりしまSS2


『三日月』

 
 三日月の上は思ったよりもでこぼこしていた。志摩子さん気をつけて、と振り向いて言うと、乃梨子は心配性ね、と彼女は笑った。狭い三日月の上では、並んで歩くのは得策じゃない。月の引力は地球のよりも小さいのだ。
 だから、ブランコのように横向きに座った。少しでこぼこがお尻に痛かったけど、そんなことよりも隣の志摩子さんがお弁当を持ってきていたことのほうが重要だ。竹の葉っぱで包まれたお弁当箱からは、甘い匂いが少しだけした。
 銀杏入ってる? と聞くと、志摩子さんは動きを一瞬だけ止めて、それからおかしそうに笑い出した。乃梨子、今は冬じゃない。そう言いいながら、彼女は暖かい水筒のお茶を私に差し出した。冬だから三日月に来たんでしょう、とからかい混じりの声で言われて、私の顔には血が上る。確かに、秋なら満月に来ているだろう。それこそ山のように銀杏と、それからお団子を持って。
 

 お茶とお弁当を一緒に食べながら、二人で正面の地球を見た。青と白と茶色が混じった、子供にいたずらされた小石のような球。こうして見ると綺麗だね、と言うと、こうして見なくても綺麗よ、とそれよりも100倍ぐらい綺麗な顔で志摩子さんは微笑んだ。私はまた顔を赤らめて、コップに残っていたお茶を一息に喉に流し込んだ。志摩子さんはそんな私を愉快そうに眺めていた。
 



 そろそろ帰ろうか、と言うのは難しかったから、私は黙って志摩子さんの手を握った。一瞬だけ驚いて、志摩子さんは私の意図を察して優しく握り返してくれた。空の弁当箱はすでにバッグの中。観光地にはゴミを捨てちゃいけない。
 目を合わせて軽く微笑む。何百かの文字が交差して、私たちは同時に立ち上がった。楽しかったね、は口に出して、手を繋いだままで帰り道に向かった。頭上の太陽が、ちょっとだけ眩しかった。

 いい三日月で良かった。私は月を見下ろして、手の暖かい感触に浸りながらそう思った。