マリみて、のりしまSS
『イン ザ トレイン』
電車に揺られて、帰り道は過ぎていく。かたん、かたん。等加速度運動で動く世界が、私たちを包み込んでいる。
「……志摩子さん?」
電車の揺れに合わせたように、隣の志摩子さんの頭が私の肩に落ちてきた。夕方、西日も終盤。疲れたのだろう、かわいく、くー、なんて寝息を立てている。
「志摩子さん、寝ちゃった?」
くー、くー、と寝息。かたん、かたん、と電車。
「志摩子さん、あと3駅だよ」
「志摩子さん、よだれなんて垂らしたらダメだよ」
「志摩子さん、ちょっと重いんだけど」
すー、すー、と寝息。プシュー、と電車は息と人を吐き出す。夕陽で疲れているのか、その動きも緩慢。緩やかに動き出してから、かたん、かたん、になるまで1分ぐらいの遅れ。
「志摩子さんの寝顔が見れないの、ちょっと残念だな」
「志摩子さん、夕陽がもう落ちるよ」
「ねえ、志摩子さん」
「キスして、いい?」
「……だめよ」
あと2駅で、電車は私たちを吐き出す。