漫画「青い鳥の神話」

 これはその古本屋にひっそりとあった漫画です。ちなみにこの隣にエオマイア上下巻があり、さらに隣に林原めぐみのエッセイ、ブルーシードアンソロジーと続きます。全部50円やる気があるのかないのか非常に見分けがつきにくい並びですが、安いのでOKです。漫画の価値がわかっていない古本屋は、常に貴重なものです。
 さて、青い鳥の神話。車田正美が98年に描いた野球漫画らしいですが、いやはやデンジャラスでした。デンジャラスすぎてテンション上がって眠れなかったからね俺。ナイスでした。初っ端から「甲子園で全打席24連続ホームラン」が来るからなあ。しかもその彼の打法は「スカイ打法」。カッコいいのかよくないのかもよくわかりません。で、そんな彼に相対する主人公の葵君。壁に向けて投げた球が地面にメリ込んでしまうほどの剛球の持ち主です。葵君のボールを見た24打席連続の人も、思わず「危ない! 逃げろキャッチャー!!」と叫んでしまいますが、残念ながらキャッチャーは逃げ遅れて(!)しまい、ブッ飛びます。そりゃもうコンクリートの壁を金網ごと突き破ってブッ飛びます。すげえ。テニスの10年前にこんな展開があったんですね。キャプテン翼など所詮ゴールネットを破るだけです。ここにテニス=野球>>>サッカーが確立したと言ってしまってもいいでしょう。ちなみに葵君の兄貴は、甲子園でキャッチャーと審判をバックネットまで飛ばしました。波動球に勝てそうだ。ていうかここの漫画喫茶波動球って一発で出やがった。何者だ。
 そんな葵君の弱点は、あまりに球が強力すぎて取れるキャッチャーがいないことだったのですが、そこで相棒の藍君が登場します。この藍君、野球の本ばかり読んで実戦経験が一度もないモヤシであり、かつ葵君の投げる球が青い鳥に見えてしまうという目と頭がアレな少年なのですが、命がけで球を取るために本職のキャッチャーを吹き飛ばす葵君の球をキャッチできるようになります。さすが車田物理学。なんか常にM字開脚で、正直目のやりどころに困るんですが、しかしそんなことは瑣末なことです。この主人公バッテリーは見事24打席の人に勝ち、1話終了。密度すげーよ。
 2話で出てくる新たなライバルは、打球をピッチャーの顔に当て、そのまま場外ホームランさせてしまいバッターでした。名づけてサイドワインダー打法。意味がわかりません。ていうか顔に当てるかホームラン打つかどっちかにしろよみたいな。その彼に目をつけられた葵君ですが、彼は彼で特訓をしています。フォークを身につけようとしていたのですが、練習時に雷が落ち、それを受けながら球を投げます。これで魔球サンダーボールが完成しました。受けた藍君はなぜか真上にバックネットを超えるくらいの車田ぶっとび。なんか知らないけど凄そうです。色々と展開し、葵君が「この球をおまえ自身の体にあてて粉々にしてやるぜ!」などと物騒なことを言い出し、二人が勝負することになりました。言い遅れましたが、当然野球とはいえ車田漫画ですので、「死んだってしらねえぜ!」とか「命を懸けてるんだ!」とかいうセリフは普通に出てきますよ。あと「葵!」「藍!」と毎回シャウトするのも忘れてはいけません。濡れるぜ。
 そしてサンダーボール。この魔球は、一旦球が後ろに戻り、さらに進むという、まさに稲妻の軌跡を描く魔球でした。ライバルも運動力学を超えた……、とかなんとか感嘆の呟きをあげます。正直どの辺が稲妻なのか、ていうか戻って進むだけなら打てそうだよなとか疑問は尽きないわけですが、なんか凄そうなのでオッケーです。そしてここで漫画は終了。まさに考えるな感じるんだのイズムを全編に渡って貫き通しました。これで50円だから日本は言い国だよなあ。凄い漫画でした。僕が一番の衝撃を受けたのは、しかし「巨人軍(ジャイアンツ)に入団します!」の部分でしたが。巨人軍で振り仮名ジャイアンツて平成生まれ着いてこれないよ……。あふれ出す70年代イズムにクラクラします。しかしグッドです。やっぱそのくらいのアレがないとね。
 やっぱりスポーツ漫画はこうじゃないとな。