オトナ帝国の逆襲

 参った。そう呟くしかない、クレヨンしんちゃんの大長編です。木曜日に見せていただいたんですが、ほんと、参った。どうしようもない。ズットクレしんって嫌いだったんですけどね。やられた。様々な人が薦める理由が分かりました。今回で僕もその側に入ってしまいました。
 スタゲ面子とも話したんですが、確かに僕らには、あの風景に直接のノスタルジーは感じられないんです。僕はまだ学生だし、生まれたときには、既に足ふみミシンも白黒テレビもなかった。せいぜい豆腐屋の鈴の音と、角のタバコ屋がギリギリなところです。なので、話に聞いて、テレビなどで見てはじめて想像できるこの国の少し前の姿を、経験として知っているわけではない。しかしそれでも、「古きよき時代」の表れとしてのノスタルジーを、やっぱり感じてしまう。浸れてしまう。それほどの強いパワーと求心力がその時代にあったのか、それ以上に現代の日本が住みづらい場所なのか、それすらも僕には分かりませんが。20年後に、僕らが若者だった時代は、どのように捉えられるのかな、とか。そういうことを考えたときに、上の世代が感じられる郷愁(未来への希望、隣人との日本的な和)と同じものを、多分僕らは感じられないだろう。そういう寂しさが、感じたノスタルジーに含まれているとしたら、なんか切ないです。共通して感じる昔の匂い、というのは、僕らにはあるのかなあ。あのノスタルジーを「体感」できない世代には、よく分からん部分です。
 しんのすけには、過去は必要ない。幼稚園児ですからね。過去よりも、やはり現在とか未来の部分が大きいし、そもそも振り返る過去なんてない。その彼がケンとチャコに「ズルいぞ!」と叫ぶのは、当たり前のことながらかなりいいシーンだと思います。みさえもヒロシも何も言えない。ケンの言う「過去」の良さを(家族の方が大事だ、と結論が出たとしても)肌で体感しているから。僕も、勝ち逃げでいいんじゃないか、なんて感じる。現在よりも、直接知らない「過去」の方がいいんじゃないか、なんて思うときがあるから。でも、しんのすけにとっては、やっぱそれはズルいんでしょう。自分が知らない場所に逃げ込むんじゃねえよ、自分が知らない楽しさばっかり見てるんじゃねえよ、と。あそこでハッとなる。未来の存在に気付く。残る可能性に気付く。個人的には、だからチャコに「怖い」とかそういうことを言ってほしかったんですけどね。まあでも、シメを決めるいいシーンでした。あれがないとあるとじゃえらい違う。あくまで個人的に、ですが。
 どこも名シーンなんですけどね。というか、まだあんまり纏まってない。本当にいい映画でした。参った。そう繰り返すだけなら出来るんですけどね。いや、いい映画でしたよ。多分、語る言葉すらいらないぐらいに。とか言ってお茶を濁しておきます。サヨナラ、サヨナラ、…さよなら。