プロ野球

 高校からの友人が、この前の帰郷時にこぼしていました。普段全然飲まない彼が、珍しくアルコールなど注文して。アルコールが入ると顔の赤くなりやすい僕をからかっていた彼が、僕よりもさらに赤い顔をしていました。
「もうさあ。オリックスなくなるんやったら、野球なんかやっていらんわ」
 オリックス合併のニュースが、ちょうど現実味を持って流れ始めた頃。冗談ちゃうで、と怪しい口調で彼は言いました。オリックスがなくなったら、俺は何を楽しみに生きてけばええんやろ。聞いてニヤニヤする僕を、とろんとした目で睨みつけて。
 
『神戸市民の家には、必ず1つはオリックスグッズがある』
 たまに僕はそう言うのですが、これは実は彼の受け売りなのです。高校時代、弱かった阪神を必死で応援する僕を、彼はそう言ってオリックスファンに引き込もうとしていました。僕はそのたびに、自分は1歳まで大阪にいたんだ、と反論になっていない反論をしたものです。
 同じリーグだったら、毎日白熱してたでしょうね。お互い、高校の3年間はアホみたいに弱かったですし。5位争いなんて、はたから見たらむなしいだけのことでも。
 95年のオリックスなんて、平成生まれはほとんど知らないと思います。覚えてるのは、僕らの世代ぐらいなのかもしれません。でも、だからこそ僕らは、それを決して忘れないでしょう。「がんばろう神戸」のユニフォームで、沢山のガッツポーズと、その何百倍の勇気を与えてくれた彼らを。強くて、カッコよくて、確かに、それは僕ら「神戸っ子」の誇りだったのですから。

 さよなら、なんてセンチに言うヤツじゃないですけど。彼は多分、今日をそんな感じで過ごしたんじゃないかと思います。飲めない酒とか無理に飲んで、いつもの何倍も愚痴っぽく呟きながら。21歳にもなって、あきらめの悪いヤツだから。
 阪神オリックス日本シリーズがあったら、きっとグリーンスタジアムはえらいことになってただろうなあ。僕と彼も、幸せな喧嘩をしたかもしれません。もう叶わない夢と、押入れに眠っているメガホンに。本当に、僕だって柄じゃないけど。
 ありがとう、なんて。言った傍から、なんか悲しくなるけれど。