ボンバーイエー


 どうしてこうなったのだろう。歯を食いしばってみても、状況は少しも変わらない。目の前の無機質な球体は、ただ正確に秒を刻むのみ。あと少し、ほんの少し。命のカウントダウンは、じきに零になる。
 そういえば、と思う。似たような状況を何かで読んだような気がする。脳の中を検索しようとして、ふと苦笑いをしてしまった。やめよう。その行為が人生の最後の行為だとするととても馬鹿馬鹿しいし、それ以上にこの状況は馬鹿馬鹿しいのだ。結局、反射的にあれを選択してしまったあの瞬間、私は世界で最も愚かな存在になったということなのだ。いや、愚痴はいい。私は甘んじてそれを受け入れよう。
 しかし、なんと永いことか!! いつもなら路上の塵に等しいその時間も、この状況ならば人生のごとき永さだ。カウントダウンは嘘のような緩やかさ。あと2秒、それとも1秒? まったく、この時間圧縮を望む時に出せるとすれば、人はすべからく待ち合わせに遅れるなどの不名誉な事象から開放されるのに。
 ちか、と球体が光った。随分永いと感じたが、なんのことはない。結局その時は来るし、回避などできない。人が放った弓矢は、どんな理屈をつけても必ずそこを通過する。体感速度の差だけが、不幸と幸福の境界を分けるのだ。
 さあ、あとたっぷり1セカンドの向こう側。私はすべてから解放される、光り輝いた惨めな敗北者となるのだ。笑うことでしか表せない世界。そこに続々と来る追従者共を、私は特等席から見下ろしていよう。今、神は私に、私は神になるのだ――


乃梨子。気は済んだ? 随分長い呟きだったわね」
「……」
「気持ちは分かるわ。私だって、ボンバーマン開始早々にAボタンを押してしまって、爆弾と壁に挟まれて逃げも隠れもできなくなったことぐらいはあるもの」
「……」
「その寂しさ、悲しさ、そして無念さ。外の3人がアイテム取ったりして快哉をあげる中、自分だけが『自爆』という汚名を着せられるのは、本当に筆舌に尽くしがたいわね」
「……」
「だけど、逃げちゃだめよ。その悔しさをバネにして、今に見てろ、次は3人ともオレの手で爆破してやる、ぐらいの気持ちを持たないと」
志摩子、さん」
「いい、これに挫けちゃ、『次』は見えてこないわ。この次、この次は必ず。そう思って必ず」
志摩子さんっ!!」
「……なあに?」
「今、優しさは意味ないの。惨めになるだけなの。だから、だから」
「……」
「だから。ちょっとだけ、黙っててっ」
乃梨子……」 
「嬉しそうにイキイキとゲームをプレイしながら、慰めたりしないで……」
「きゃっ。これで火力が5になったわ♪」

 画面からまた、無常な爆発音が響いた。