のりしまSS4

『満月』(ウサ ギガンティア萌え)



志摩子さん疲れた〜」
「ダメよ乃梨子。まだ途中でしょう」
 ぜいぜいと息を荒げて言うと、志摩子さんも額に汗を滲ませて、しかし毅然と返してきた。でも、と言い返そうにも、長い間杵を振っていた自分の腕がぎゃあぎゃあと悲鳴を上げている。座って餅をひっくり返す役の志摩子さんにしても、かなり体にきているようだけど。
「でもさ、なんざわざわざ私だちがさ、こんなことしなきゃなんないの?」
 かくん、と杵を臼に立てかけて私は腰を下ろした。志摩子さんも休憩には依存はないのか、私の隣まで来て、私と同じように臼にもたれて座った。そして、軽く笑んで私の顔を覗き込む。
「そんなに疲れた?」
「……そういう、わけじゃないけど」
 その笑顔に弱いことは自覚してる。赤くなった顔を誤魔化すように俯くと、志摩子さんはくすくすと笑って私の肩に手を置いた。



 肩を撫でられて、それがくすぐったくて心地いい。その部分だけ1度ぐらい体温が上がったような感触と、ゆるやかに落ち着く気持ち。そのままいい雰囲気にしといてくれればいいのに、ウサギ達はそんなのはお構いなしだ。4倍増しでぴょんぴょん跳ねて、私達にお餅の催促をしに来る。
 満月の日にだけお餅をつくウサギたちと、手伝いに来た私たち。やってみて分かったけど、これは結構重労働だ。ウサギたちが2週間ごとにしか出来ないのも、なんかわかる気がする。
 まだ途中だから、と言うと、彼は頷いて去って行った。ぴょんぴょんと跳ねる姿は、でも全然ゆったりとしていた。別に急ぎでもなかったのだろう。それならば二人っきりを邪魔しないで欲しかったなあ、と私は思う。ウサギに返事をした時に、肩から離れた志摩子さんの手がもどかしい。



「ウサギって、本当に目が赤いね」
「そうね」
「ビタミン足りてるのかなあ」
乃梨子、あなたはカルシウム不足よ」
「……そうかなあ」
「ええ。だから、これあげるわ」



 地球を見上げて飲む牛乳は、なんか変な感じだった。でも志摩子さんがくれたものが不味いわけなんてない。少し温くなっていたけど、そんなのは全然関係ない。
「飲み終わったら続きをしましょう」
「うん」
 隣の志摩子さんが立ち上がる。飲み終わったパックを脇に置いて、私もゆっくりと立ち上がった。青空とか夕焼けとかがない空は味気ないから、上を見ても気分は晴れない。でも。
「ねえ、乃梨子
「なに?」
「私はね。乃梨子と何か出来る、というだけで、とても楽しいし、幸せだわ」
その志摩子さんの笑顔だけで、味気なさは一気に変わる。そんな私に志摩子さんはにっこりと笑って、さあ、続き、と本当に楽しそうに言った。だから私もはいっ、と力強く杵を握る。両腕の痛みは、もうないのと同じ。



 満月のお餅つきをウサギがやる理由が、なんとなく分かった気がした。