郁未SS 『不器用なマフラー』

 
 軽く雪が降っている。雲を細かく千切ったかのようなそれは、平和の羽よりも軽く舞い降りてくる。吹雪く3歩ぐらい手前の雪模様は、それでもやっぱり人には寒い。手を合わせてその中に息を吹き込んで、少しだけ暖かくなれるぐらいに。
 そっぽを向いて、彼はわたしの首にぎこちなくマフラーを巻いた。毛糸はほつれかけで、網目の大きさも合っていない。一目で手作りと分かるマフラー。彼はとても不器用で、それでもその手で必死に編んだのだろう。相変わらず目を逸らして、でも何かを期待するようにちらりちらりとこっちを見る彼。それがおかしくて、そして愛しくて。舞い落ちる雪よりも軽く、そのマフラーよりも暖かい彼を、わたしはぎゅっと抱きしめた。
 戸惑ったような彼の吐息に、あははと笑ってわたしは自分をもっと押し付けた。彼の体温が上がるのが分かって面白かった。
 
 あのね郁未、とどもりながら言う彼よりも先に、好きだよ、と耳元で呟く。う、と詰まる彼の顔は、あまりかっこいいとは言いがたい。


 違うよ。誕生日おめでとうって言うつもりだったんだけどさ。照れてそういう彼は、やっぱり可愛かった。