マリみてSS

『相思相愛』


瞳子ってさ、実はいい女だよね」
「いきなりなんですの」
 かたん、とティーカップをテーブルに置いて、瞳子は眉を寄せて乃梨子を見た。呆れたようなため息に、焦点が微妙にずれた瞳を乃梨子は返す。
「料理上手いし、手先器用だし。それに、案外相手を立てるタイプだよね」
「そうですの?」
「うん、そうだよ」
 こく、とティーカップを傾けて、乃梨子は大きく頷く。そのまま大真面目な顔で、頬杖をついて瞳子を見つめる。瞳子はため息をついて、自分のカップに手を伸ばした。
「それでしたら、乃梨子さんもいい女ですわ」
「そうかな」
「そうですわ。クールですし頭脳明晰ですし。それに、時々とても可愛いところをお見せになりますもの」
「それって、私が仏像好きなことも?」
「そうともとれますわね」
 カップを傾けたままで、探るような目で瞳子乃梨子を見つめる。一瞬、視線が絡まりあって。やがてかちゃん、と、ほとんど同時にカップが受け皿に置かれた。
「じゃあさ、もったいないね」
「そうかしらね」
「私らが同学年じゃなかったら、いい姉妹になれたかもしれないのにね」
「そうですわね」
「お互い、魅力知り尽くしてるじゃない」
「そうとも考えられますわね」
 俯いたのは同時。顔を上げて、もう1度視線が絡まったのも同時。
「でも、乃梨子さんには白薔薇さまがいらっしゃいますわ」
瞳子にも祐巳さまがいるね」
「うまくいきませんわね」
 瞳子が視線を逸らす。乃梨子はそんな瞳子を、じっと見つめたままで。
「同級生だから、うまくいくと思わない?」
「……乃梨子さん」
「ねえ。瞳子
「いいえ。絶対に、うまくいきませんわ」
 ふふ、と乃梨子が笑う。瞳子は目を伏せたまま、またカップに口をつけた。
「まだ、誰も来ないね」
「来ませんわね」
祐巳さま、来ないね」
「来ませんわね」
 カップを置く音が少しだけ高く聞こえて、乃梨子は軽く笑った。
 瞳子は、俯いたまま。