マリみてSS

イノセンス


「あ〜、あのお姉ちゃんたち、キスしてるよ〜?」
 数名ぐらいの園児の集団。無作法にこちらを指差してるのが横目で見える。公道の真ん中でのキスは、確かに目立つものではあった。
 ぎゅっと抱きしめた身体を未だに硬直させて、祐巳ちゃんはキスに応える。しがみつくように必死に、感触だけを頼りに。必死に閉じられた目は、それでも私に委ねられている。
 暖かい、祐巳ちゃんの身体。緩やかに溶かされるような。

「見ちゃいけません!! ほら、早く帰るの」

 はっ、となった。その衝撃で唇が離れる。少しの吐息が顎の辺りにかかった。
 聖さま、と祐巳ちゃんが上目遣いで問うてくる。じっと見つめられて、私は逸らすことが出来ない。

 分かっている。これが不自然だって、間違ってるって。言われるまでもなくそんなことは分かってる。でも、祐巳ちゃんがあまりに暖かくて、綺麗だから。どうしようもなく勘違いしている自分を、旨く覆い隠してしまう。
 間違いじゃない、気さえしてくる。



「ばいば〜い」
 親に注意されながらも、園児たちは私達に手を振る。恥ずかしげに俯く祐巳ちゃんの頭を撫でて、私も軽く笑って見せた。
 汚れているのは、私だけでよかった。