儚いものの儚いこと

いやー、素晴らしかった。ちょっと言葉が見つからないですね。映画「この世界の片隅に」はほんとに良かったです。だいたい映画観終わった後って、適当にペラペラと講釈が頭に浮かぶものなんですが、これに関しては全く浮かばなかったな。もうなんか、砂を胸の中にさらさらとでも大量に押し込まれたみたいな。それは凄く綺麗でほっとするものなんだけど、寂しくて悲しくて儚いんですね。とかなんとかよくわからんポエムが2,3出てきたくらいでね。なんていうか、いやー、ねえ。もう観てくれとしかね。シン・ゴジラは、これは俺はすげえ好きだけど一部ヲタク向けだからきっと売れないだろうなって思ったし、君の名はも話題にはなってるけどまあそこまではいかないだろう、とたかをくくっていたんですが、これはもう自信を持って誰にでも薦められます。めっちゃ良かったから見てくれと。むしろ今すぐ行けと。なんかがあって明日死んじゃったら、これ観なかった事絶対後悔するぜってくらいです。
なんていうか、すずさんの声が非常にはまってましたね。北の海女の人なんだって、いやー凄かった。あのすっとぼけた感じがはまるのなんの。怒ったときのちょっとはねる感じがまたいいやね。数箇所声を荒げる場面があるんですが、それらがぐっと来てくすってなっておえってなって、めちゃいいです。周作さんの、なんかいやいい奴なんだけどお前もうちょっと、でもいい奴だよな感とか、哲さんのごっついけど明日死ぬセミみたいななんともいえないあの感じとか、素敵です。この3人が喋ってるときのあの広島弁(なのかな)がまたいい雰囲気作ってるんだよ。それにあの淡いけどよく見える背景に、どこかしんとなる音楽。悪い人では絶対にない周りの人たちもいい。お義父さんお義母さんの町外れのいい人感とかたまんないですね。義姉さんの一本気な素直じゃなさもいい。
ただ安心したり泣けたりというわけじゃないのは、やっぱり彼女らがどうなるかを知っているからですね。戦局が悪くなってきて、ご飯がまずくなって少なくなって、それでも笑いながら生きてるのに。生きてたのに。すっとぼけたすずさんがいる、あのほんわか北条家が軋み出したあたりはきつかった。ほんとに鉛でも飲み込んでた気分なのに、またそれ以上の悲しさが襲ってくる。それでも、生きてるんだから、生きなくちゃいけなくて、腹減ったら食うし、眠くなったら寝るし、笑うときは笑うしで、こうなんていうんですかね。凡庸な言葉しか出ないんですが、やっぱりこの映画で描かれてる人を、本当にその辺ですれ違いそうな人だと認識してしまうんです。そうなるとひとりひとりのああいうそういうのがね。内臓に来ますよね。映画館出たときに、現代人の夢が彼女らなのか、彼女らの夢がこっちなのか、ちょっとくらくらしました。それでこういう、ふわふわでふらふらな言葉が出てくる始末でありますことよ。
はじめはテアトル系でしかやってなくて、ていうか先週の日曜日の昼に行ってみたら既に全席埋まってて、これは平日に仕事休んでいくしかないやんかとびびってたんですが、別にTOHOシネマズでもはじまってたりね。よかったーと思いながら検索したら地元の映画館でもやってたりして。当然ですよ。さすがにこれほどの映画を、そんなちょっとの公開はもったいない。映画「この世界の片隅に」、間違いなく傑作です。12月中に是非見て欲しい一本ですね。俺もどっかでもう一回観に行こう。でも内臓に来るんだよなあ。終わったらポエムみたいな言葉しか出てこないし……。いやいいんだけどね。いいんだけども。